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福岡高等裁判所 平成8年(ラ)154号 決定

抗告人

株式会社福岡丸重破産管財人弁護士

松﨑隆

相手方

文化シャッター株式会社

右代表者代表取締役

亀谷晋

右訴訟代理人弁護士

河野美秋

野田部哲也

第三債務者

高山總合工業株式会社

右代表者代表取締役

高山淳吉

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、「原決定を取り消す。相手方の本件債権差押命令の申立てを却下する。本件手続費用は、第一、二審とも相手方の負担とする。」との裁判を求め、その理由として、「相手方は、本件差押債権として、破産者株式会社福岡丸重(以下、「破産会社」という。)が第三債務者に対して有する本件目的、物の売買代金債権を主張するが、右目的物に関する破産会社と第三債務者の契約関係は、破産会社を請負人、第三債務者を注文者とする請負契約関係であり、破産会社は、第三債務者に対し、売買代金債権ではなく、請負代金債権を有しているのであって、右請負代金債権は、民法三〇四条の物上代位の対象ではないから、物上代位を理由とする本件債権差押命令の取り消しを求める。」と主張する。

二  当裁判所の判断

1  本件目的物に関する破産会社と第三債務者の契約関係は売買か請負か

一件記録によれば、建設業者である第三債務者は、平成八年二月二〇日、アルミ建材、硝子等の施工業者である破産会社に対し、自らが請負ったJA大分市カントリーエレベーター新築工事の内の鋼製建具工事(代金一〇三五万円(消費税を除く。))及び硝子工事(代金一一五万円(消費税を除く。))を発注し、破産会社は、相手方から買い受けた本件目的物(代金一〇八一万五〇〇〇円(消費税を含む。))により受注工事を完成して第三債務者に引渡したことが認められ、右事実によれば、本件目的物に関する第三債務者と破産会社の契約関係は、請負契約関係(以下、「本件請負契約」という。)であったと認められる。

たしかに、一件記録によれば、相手方主張のとおり、①本件目的物は、何ら加工されることなく、原形のまま留め金等により工事現場に取り付けられたこと、②右取付作業は、現実には、相手方の側で行い、破産会社は何らの作業も行っていないこと、③相手方、破産会社間の売買代金額に対する右代金額中の取付費の割合は、後記のとおり一割三分程度という低率であることが認められるが、第三債務者作成の陳述書、抗告人提出の乙一ないし四並びに前記認定した第三債務者及び破産会社の営業内容、破産会社は第三債務者の下請として前記工事を引渡したといえることなどに照らすと、右①ないし③の事実によって、破産会社と第三債務者の契約関係が売買であると認めることはできず、他にそのように認めるべき証拠はない。

2(一)  本件請負代金債権は本件差押債権か

原決定中の差押債権目録記載には、差押債権として、「債務者(破産会社)が第三債務者に対し、別紙記載のとおり有償譲渡売渡した動産の代金相当額の金1081万5000円」と記載されているが、同目録中の「有償譲渡」及び「動産の代金相当額」の記載及び同目録において引用されている別紙中の現場名、納入日の記載等を総合すれば、本件差押債権は、同目録中の「売渡した」の記載にもかかわらず、破産会社の第三債務者に対する本件目的物についての請負代金債権であると認めることができる。

(二)  本件請負代金債権は先取特権の物上代位の対象となるか

一件記録によれば、相手方は、破産会社に対し、平成八年五月二〇日付けで、本件目的物を代金合計一〇八一万五〇〇〇円(消費税を含む。)で売り渡したこと、本件目的物は、相手方側が、直接、前記工事現場に納入し、売買の一環としてその取付工事を行ったもので、破産会社自らが本件目的物の取付け等につき何らかの工事をした形跡はないこと、相手方は、本件目的物中、アルミサッシについては、これを新日軽株式会社(以下、「新日軽」という。)から買い受け、破産会社に転売し、現実の取付けは、新日軽がこれを行ったところ、相手方と同社の売買代金は、値引き交渉の結果、最終的には七七〇万円となったが、当初の同社の見積もりでは、売買代金は九六一万七六九〇円であり、そのうち取付費は一二九万五〇三〇円で、約一割三分程度の割合であったこと、また、本件目的物中、スチールドアの取付けは、新日軽が無料で行い、アルミサッシ、スチールドア以外の物件の取付けは、相手方が古城工業にこれを依頼し、その費用は三一万六五四四円であり、右物件の代金額二四〇万円に対する割合は約一割三分程度であったこと、

以上の事実が認められ、右事実によれば、破産会社と第三債務者間の本件請負契約においては、本件目的物の所有権移転が主体であり、その取付工事は付随的な内容をなすにすぎないものであるうえ、右工事は、現実には、相手方が破産会社との売買契約上の債務の履行としてこれを行ったものであるから、本件においては、本件請負代金債権に本件目的物の転売代金債権性を肯定したうえ、相手方は、本件目的物の売買の先取特権者として物上代位により、右請負代金債権を差押えることができると解するのが相当である。

三  以上によれば、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用を抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官稲田輝明 裁判官田中哲郎 裁判官永松健幹)

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